ペン森通信
杖の威力を知る電車
 小さな論争が朝日の「声」欄であった。電車の中で老人や体の不自由なひとに若者が席を譲らない、そんなことはない年寄りの私はよく譲ってもらう、という内容。昔からある類の小さな論争である。ぼくのかみさんは73歳のばあさんだが、若いひとが知らんふりしてスマホをいじって譲られることはすくないとこぼしている。がんを複数患ってまだ復帰途上にあるが、外見上は年寄りと見えるだけで元気そうに見える。

 ぼくは老人で杖をついているから優先席ではよく譲られる。杖の効果は抜群である。優先席もほとんど意識しないで利用するようになったのは70歳くらいからだ。それまではなるべく一般席に座るか前にっていた。杖をついてなければぼくも元気そうに見えるらしい。主治医が検診に行くたびに元気だなあ、と感心している。そう言っておけば元気を保ちこれ以上衰えることはないだろうという医者としての政治的発言かもしれない。

 最近は神保町との行きも帰りも優先席まっしぐらだ。一般席は見向きもしない。優先席に座るのに気がとがめることがなくなった。若者でもおばさんでも譲ってくれるのが当たり前と思うようになった。このあいだ、ぼくより年配と想像されるじいさんの前に座っていた男子がパッと席を立った。じいさんは当然のように座った。ポケットをごそごそやって取り出したのがスマホ。優先席でスマホに見入るじいさんはどうも場違いである。

 スマホやケータイでなく文庫本や新聞を読んでいると無条件にいいひとだと思う気持ちがぼくにはある。このところ文庫本を手にしている中年男をよく見かけるようになった、のはぼくだけか。ぼくも必ず文庫本を読む。いまは遅まきながら島崎藤村の『夜明け前』。藤村は馬籠の生家も見たが、クリスチャン(のちに教え子とできて棄教)のくせに家事手伝いとして兄がよこした姪っ子を犯しフランスへ逃げる。初々しい詩に比べて男の欲望むきだしの落差。

 ぼくも女子好きだからとやかくは言えない。先日神保町で下車して階段で杖にすがって慎重に下りていたら、右となりをミニスカートの若い女の子が追い越していく。きれいな脚だなあ、と見とれていると、女の子はふと足をとめた。振り返って心配そうな表情をして「大丈夫ですか」と声をかけてきた。ぼくはにっこり笑って「慣れていますから大丈夫です」と答えた。とびきりの美人ではなかったが、その日は1日中ウキウキしていた。

 この間の朝、こんなこともあった。今度は高校生とおぼしき男子。エスカレーターに乗ってホームに向かっていたら、男の子が大きなスポーツバッグをもって右側を追い越そうとして声をかけてきた。「すみません。急いでいますので傍を抜けて前に出ます」。この日も気分がよかった。若者の中にもいいやつがいる。もちろんペン森20期生にもいい男子がいる。女子は気質的にはまだまだの子もいる。20期女子は総じて同期男子より劣る。

 ぼくが帰宅する夜遅くには年寄りはいない。サラリーマンやOLが疲れているか一杯飲んだあとかで優先席にぼく以外に2,3人座る。その優先席も神保町のつぎの九段下で若い男女に空席が占拠される。せっかく座っても酒のはいった年寄りのぼくは尿意を催して途中下車することが多いのだ。

 
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