ペン森通信
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マッチョよりも哀切抒情です
 北方謙三の『水滸伝』(集英社文庫、全19巻)をもうすぐ読み終える。藤沢周平の用心棒日月抄シリーズの三番目『刺客』(新潮文庫)を寝床で読了したので車中の読み物として今朝、『水滸伝』の最終巻に舞い戻った。登場人物が108人にのぼり、それぞれの関係が連鎖している長編だから一気に読み通せない。1巻から末尾に作家や文芸評論家の解説がついているが、完了巻は解説から読んだ。知人のムルハ―ン・千栄子が書いていたからだ。

 ムルハーン・千栄子は6月29日に開かれたたぼくの後期高齢者入りの会に顔をだしてくれた。会場の瀬下塾生、ペン森生はだれひとり顔見知りではなかったと思うが、いちおうペン森の講師人に名を連ねてもらっている博士だ。もう30年以上も遡るが、アメリカの作家、ジェームズ・クラベルが書いた小説に『将軍』というのがあった。アメリカをはじめヨーロッパでもテレビドラマ化された当時の著名な日本を舞台にした物語である。

 その『将軍』に関する異文化取材でロサンゼルスへ行った。西海岸のサンタバーバラだったか、海のはてまで見はるかす海岸でアメリカの日本研究学者5人の座談会を記録した。座談会の一人にムルハ―ン千栄子も加わっていたのである。座談会はぼくに気を使って日本語で行われた。それを聞くだけだから、きわめて楽な仕事。その発表記事を目にしたムルハーン・千栄子がこんなに正確に再現した記事ははじめてとしきりに感心していた。

 すっかり気をよくしたぼくと彼女との交流がスタートした。彼女はぼくより5歳上で青学出身。若いころからアメリカでて日本文学、比較文学を研究する研究者となる。名門コロンビア大学で博士号を取得し、イリノイ大学の教授で35年の在米生活を終える。夫はもう歿していた。小説も書いてぼくに見せていたが題名も忘れた。追撃されるインディアンが、ナイフを土に突き立てて耳に当て、相手を確認するという描写だけ記憶している。

 訪米のさい、ぼくはジェームズ・クラベルの豪邸を訪ねた。『将軍』を日本で映画化するときヒロインを演じた島田陽子にもインタビューした。島田陽子は国際女優だったのである。クラベルの自宅は丘の上にある広大な白亜の建物でプール付きだった。『将軍』は大衆小説だが、クラベルがさも大作家のようにふるまっていたのがおかしかった。政治記者が政治家然としてでかい態度をとるのに似て、この作家は一流ではないと感じた。

 ムルハーン・千栄子が渡米したのは1960年にもなってない50年代である。いまの若者は内向きだが、ぼくが大学3年の60年当時はまだ海外雄飛の機運が高かったのである。彼女はアメリカ人と結婚し、アメリカの大学で日本語や日本文学、シネマ学をアメリカの若者に教えた。『水滸伝』の解説には彼女らしい面がよくあらわれている。『水滸伝』は汗臭いマッチョが活躍するが、彼女は大西部時代の男たちとかぶせて解説している。

ところがぼくは、中国歴史小説『水滸伝』よりも、日本情緒の藤沢周平のほうに愛着がある。藤沢は海外ミステリーをよく読んでいたらしいが、その小説に描かれるスリリングな緊迫感と男女間の哀切、抒情的な風景描写とが混ざり合って単純さはない。巧緻な文章技術と相まった複雑精妙な味わいは、秋の夜長を忘れさせる。
 
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