ペン森通信
思い思われ数十年,羨ましい
 昔仕えた編集長が行方不明になった、と聞いたのは昨年10月だった。今年にはいって寒中見舞いが届いたので、なんだ本人は東京にいるじゃないかと勝手に思っていた。そのかつての編集長から突然、はがきが舞い込んだ。「小生ある事情から東京の家族とはなれ、某パートナーと鹿児島に来て半年が過ぎました」。ぼくの故郷、鹿児島にパートナーと居住していたとは、おどろいた。車いすの老人の意外な消息であった。

 だが、意外ではなく、知る人ぞ知るかれと某パートナーとの関係である。長年付き合ってきた恋人と駆け落ち同然の家出をしてのけたのである。家族をすてるほどの純愛物語だ。行方不明が話題になった際、見抜いたのは、高校時代のガールフレンドといっしょになって、ついに奥さんと離婚したべつの元編集長である。「女がからんでいれば、ことは複雑だよ」と言っていた。自身、女性問題で葛藤体験のある身だからこその推察であった。

 家出元編集長の奥さんにはぼくも家人も以前、悩まされた。深夜1時ごろうちに電話がかかってきて「主人はどこへ行っているんですか。あなたは主人の動向を私よりも知ってるはずでしょ。どこへ行っているんですか」と詰問される。どこへ行ったかは知らないが、だれのところへ行っているかは知っているが、そんなことを漏らすわけがない。いま鹿児島でパートナーとなっている、と確信できる女史のところへ行っているに決まっていた。

 家出元編集長の現役時代、よく席をはずしていた。相談ごとがあっても編集長はいない。「どこへ行った?」「外食中だろう」。彼女のところへしけこんで、愛の交歓をやっている最中だろうと、部下たちはにらんでいたのだ。それを外食と部員はいっていた。しかし、だれひとりとしてその秘密を部外へ話す部員はいなかった。編集長はクールながらざっくばらん、勘が冴えて優秀だったから、部員は敬愛の念を感じて従っていたのだ。

 テレビの昼間のニュース番組のコメンテーターを務めていたこともある。そのころは私立大学の教授になっていたと思う。ぼくは昼間からテレビを見る時間のない勤め人だったので、彼の切れ味のいいコメントを耳にしたことはない。じつは切れ味が鋭かったかどうかも分明ではない。社会部時代、2人で組んで同じ官庁を担当していたぼくは、かれの口にする感想のすべてが切れ味鋭敏なナイフのようだ、という印象が定着しているのだ。

 あいtrのパートナーのことは、顔はわかるが話したことはない。同じ社内にいたやや小太りの女史。著書もある才女だ。一見おばさん然とした彼女のどこに引かれたのかは余人の想像外だ。ぼくの見るところ、家出元編集長はぼくほどではないが、昔はかなりの好色。2人で組んだ若い時分、かれはゆうべの戦果を得意になってしゃべることもあった。いつごろかから、パートナーと付き合いはじめ、思い思われ数十年を重ねたのだろう。

 ほんとうの幸せってなんだろう。家出元編集長は81歳に至って家族と離れ、愛する恋人とやっと鹿児島に住み、いましみじみ幸せだろうと思う。かれのように1人の女性をずっと思い続けてきていっしょになった男をぼくは知らない。真実一路、じつに羨ましい。

 
 

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