ペン森通信
『64』には口直しが必要だ
 横山秀夫の『64』を読んでいる。ぼくは元新聞記者だから、記者と警察幹部のあいだに立つ県警の広報官の仕事や記者の立場はわかる。ただ、横山小説は人間の心の底にへばりつく悪意、憎悪、怨念、裏切り、復讐心,疑惑,隠蔽といった心理を拡大して陰気にさせるので、ぼくは読むに根気を要する。善意の優しいお人よしは出てこないから,暗鬱な心境に陥る。いやな気分のまま最後まで読んでしまう石川達三や、清張の小説と似ている。

 書店に行くと、平積みで2列に積んであったから、かなり売れているのだろう。いま半分くらい300ページまで読み終えた。もうこのへんで止めて一足飛びに最後のほうのページをめくろうかと迷っている。ミステリーはこうして途中を省いて中抜きで読むことがぼくは多いのだ。この『64』は分厚くて重量があるから、寝床で開きにくい。電車でも重すぎる。老人向きに気配りした本ではないのである。だから読了に時間がかかる。

 あすあさっての土日は絶好の読書日だが、BOOK・OFFへ出向いて、陽気な文庫本でもさがすか。陰気きわまる『64』の口直しをしたい。同じ警察小説というか暴力団ハードボイルドというか、大阪弁まるだしでリアルな黒川博行作品からさがすとするか。最新刊『繚乱』はいま盛んに広告を打っているが、文庫になるまで待ってもよい。傑作『国境』は一度手にしてあまりの分厚さにあきれて諦めた。では『悪果』にするかな。

 善人が出てきて癒されるのは伊藤桂一の戦場ものだろう。戦地という苛酷な条件下でも優しさや良心を失わなかった兵隊の姿をいかにも詩人らしい濁りのない筆致でいきいきと
描く。清涼剤小説ならぼくのような老人には伊藤桂一だ。もっと若かったら三浦しをんの『風が強く吹いている』を読みたいところだが、何回も手にとっただけ。あぶない予感がしたからである。たぶんこれは泣いてしまう青春小説だ。涙腺の弱いぼくには危険すぎる。

 『永遠の0(ゼロ)』を再読したいのだが、これは電車の中では開けない。喉の奥をひっくひっくさせて、鼻水も盛大に流すだろう。先週、奄美大島へ行く飛行機の中で同行の17期女子が読んでいたのが『永遠の0』だった。若い人の必読書と言っていい。放送作家、百田尚樹のデビュー作。このあいだ「行列のできる法律相談所」をみていたら、1人の弁護士がこの本を推奨した。レギュラー席から「もう号泣、号泣だよ!」と声があがった。

『永遠のゼ0』はいまでも書店に平積みされている。口コミでじわじわと広がってミリオンセラーとなったこの文庫をぼくが知ったのは06年か07年だった。亡くなった児玉清がなにかの座談会でほんのちょっと触れていたのを目にして、さっそく買った。15期生に勧めたら、何人も読んだ。奄美大島の島尾敏雄記念館で同行ペン森生はこぞって名作『死の棘』を買っていた。20年以上も前にぼくが推薦していた女は怖いという私小説である。

 『死の棘』は映画化され、国際的な評価も高かった。『永遠の0』も映画化され、来年公開される。『64』も映画になるのだろうか。陰鬱な心理描写は『死の棘』よりも難しいのではあるまいか。で、『64』は中抜きで今晩は最後の39ページを読もう。

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