ペン森通信
気長と短気のどっちが好きなことをやったか
 亡くなった作家の藤本義一は『貸間あり』『青べか物語』の映画監督、川島雄三に弟子入りした。川島は藤本に叩きこむ。「プロは嫌なことをするから好きなことができる。アマは嫌なことを避けるから好きなことができない」と。以上、きのう1日の毎日新聞「余禄」からの受け売りである。ぼくは嫌なことを避けながら好きなことしようとして、これまで生きてきた。好きなことだけやろうとするからプロではない、と自覚している。

現役時代は嫌なというか、不得意不得手なこともいやいややった。といってプロと威張れる腕利きの特ダネ記者ではなかった。ぼくは文系だから理系はまるでだめ。数字にも弱い。古い話になるが、それでも「円高包囲網」という連載を85年のプラザ合意後の急激な円高を題材に社会部のぼくがひとりで十数回書いた。編集局長になんで円高を社会部がやるんだ、と経済部から強い抗議があったとのちに耳にした。偏狭な、なわばり主義。

その連載の商社記事と銀行為替部門の符丁を日経が追いかけた。不得意な分野だからこそ、ぼくの素人質問に相手は丁寧にこたえる、間違ったことを書いてもらっては困るから不安のあまり、時間を割いてくれる。不得意不得手には知ったかぶりは大怪我のもとだし、謙虚に頭を下げて記事の材料を集める。ぼくは1円1円を積み重ねて100万円をためるタイプではなく、行き当たりばったりのタイプだから、書く内容はその日に決める。

きょうはデパートを素材にしようと思いたって当時有名なスター社長のいた西武百貨店にねらいを定めた。突然行って「社長に会いたい」と広報に言った。謙虚ではなくかなり乱暴。「アポイントをとっていますか」「とってない」「じゃアポをとって後日」「後日じゃ間に合わない。すぐ会わせてくれ」「そんな無茶な」「おたくの社長はトイレに行く?」「そりゃ行きます。人間ですから」「ぼくはついていってトイレで取材するよ」

とまあ、広報とやっさもっさやって、ついに社長に会えた。そこで円高の取材であることを広報にも話していたが、直接告げた。社会部はいい話題はほとんど書かないので警戒される。為替の話でどうして社会部なのだろうと首をかしげながらも、悪口を書くわけではなさそうだと察して折れたようだった。社長に了解を得て、社長とともに店内売り場を回った。ぼくは輸入品の品物を指しながら、円高でうるおう側面を聞いたのである。

不得意不得手であれば、こっちも血相を変えて迫力が生まれる。その勢いで相手を押し切ることもできる。でもこれはせいぜい30代までのような気がする。年を重ねるとそれなりに世渡りの知恵がつく。この知恵がつくと男の場合、好々爺になるか、いらいらと気難しく短気な石原慎太郎のようになる。男はおおむね気の長い老人と短気な老人の二手に分かれる。さて短気は好きなことができたほうか、好きなことができなかったほうか。

好きなことができたほうが短気だ。慎太郎は嫌なことを避けて好きなことができた珍しい例。嫌いなことに直面した経験が少ないからすぐいらいらする。ぼくは好きなことがごく少なく旅、酒、女子の三つしかない。短気起こして一つでも失っては生きられない。この三つを同時にゆったりと味わい付き合う。来週月曜日74歳の好々爺になります。
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