ペン森通信
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山本周五郎をまた夢中に
 先祖かえりとでもいうのだろうか、あるいは単なる懐古趣味だろうか、いずれにしても74歳を目前にした年齢と関係があるにちがいない。中高大時代に読んだ本を再読しはじめたのである。同年齢の本好きが、はしかにかかったように夢中になった山本周五郎をまた手に取っている。愛読書に『ながい坂』をあげた11期女子がいた。えっと驚いた。周五郎の作品は総じて求道的で『ながい坂』は、彼女に似つかわしくなかったからだ。

 少年2人の友情成長物語『さぶ』、仙台藩重臣原田甲斐に定説とは別の善人の角度から光をあてた『樅の木は残った』、浦安在住当時の漁師町の生態を活写した『青べか物語』と名作は数多く、原作はよく映画、舞台、テレビ化された。『樅の木は残った』はNHKだったが、小説を読んだ吉永小百合は「女心をよくご存じだ」ともらし、最後のシーンでわたしはぬれた、との感想だった。ぼくは最期を読み返したが男だからかなにも感じなかった。

 なかでも有名なのは『赤ひげ診療譚』だろう。いまでも「赤ひげ先生」という言葉は一般に流通している。これは黒沢明が映画化した。三船敏郎が赤ひげ先生に扮した。3時間におよぶヒューマンな名画だが、長さを感じさせないドラマチックな黒沢映画だ。赤ひげは困ったひとを助けるところに意味がある。ぼくが16期男子からもらった秘薬は赤ひげ薬局で求めたものだ。まだ使うチャンスがない。ぼくも困った男だが、使うあてもない。

 現在の中高大生はわれを忘れるくらい夢中になって読みふける小説はあるのだろうか。出版社に就職した3期生男子は大の冒険小説好きでぼくと冒険小説談義をよく交わしたものだ。もっともそれは15年も前の話だかから、冒険小説も古典ばかり。アリステア・マクリーンの『女王陛下のユリシーズ号』とかギャビン・ライアルの『深夜プラス1』とかジャック・ヒギンスの『鷲は舞い降りた』とか、ハラハラドキドキの懐かしき物語だ。

 『女王陛下のユリシーズ号』の荒れ狂う海の描写力はすごいなあ、『鷲は舞い降りた』は悪人一辺倒のドイツ兵のなかに心やさしい者もいたという視点がよかった、といった会話がすっかり消えたのはいつからだったろうか。そのころ、ペン森には土曜日に映画会や読書会もあって、『鷲は舞い降りた』も上映した。DVDはまだ登場してなくて、ビデオテープをだれかが借りてきた。やっとケータイが売られはじめたかどうかの時代だったのだ。

 今年、うちの近くにBOOKOFFが新規に開店した。このあいだは向田邦子を6冊買ったが、あすあさっての土日は山本周五郎だ。短編集『大炊介始末』『日日平安』『おさん』
『ひとごろし』『おごそかな渇き』。ほとんど大学当時に読了したが、筋だけはかすかに憶えている。細かい部分はまったくはじめてという感じ。半世紀のあいだに98%は消し飛んでしまい、わずかに2%だけが濾過されて、純度の高い上澄みとして残留している。

 濾過されたとか純度が高いといえば聞こえはいいが、実際は過去の美化された一部が記憶されているにすぎない。老人の過去はすべて純度高く美化されるのだ。でもぼくは、現在を美化する赤ひげ秘薬をいつでも使えるよ。使いたいけど使えないだけの話。 

 
 
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