ペン森通信
スポンサーサイト
上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。

一流作家の頭の中
またまた書店グランデの6階に行ってしまった。ぼくにとって禁断の鉄道本・雑誌・グッズ・DVD売り場である。今度はついにDVD『JR高千穂線』2500円を買った。運転台展望のDVDである。宮崎の延岡から天孫降臨の地、高千穂という山奥まで単線で単調に分け入って行く。沿線に集落が点在するが駅に人っけはない。すれ違う列車もなく、1日に3ダイヤくらいの線路らしい。ところがこの書店に入るまでの誘惑が大変なのだ。

直前に100円本を並べている古書店があるからだ。ぼくはどうしても立ち寄って物色してしまう。いま電車で読んでいるのも100円文庫本だ。井上靖の『敦煌』。井上の透明感のある誌的な緊張した文体が心地よい。恥ずかしながらページを開いてからまだ読んでないことに気づいた。買ったときは再読のつもりだったのである。おなじ西域ものの『楼蘭』と間違えたようだ。昔読んだ『蒼き狼』も傑作だと思ったが、『敦煌』もすばらしい。

いや、傑作とかすばらしい、というのもおこがましい。傑作ですばらしい、に決まっているのである。何回もノーベル文学賞をとるかとうわさされ、その季節になると文芸記者たちが門前に群れた。ノーベル文学賞をもらって当然の作家だったが、大江健三郎のように作品の翻訳に力をいれて海外進出を図ったり、海外で講演したりとPRに執着しなかったこともマイナスに作用した。このことはアメリカの大学の日本人教授から聞いた。

ぼくは社会部記者だったから、文芸担当みたいに作家と親しんだわけではない。1回でも会ったのは、開高健、近藤啓太郎、渡辺淳一、中村武志、沢木耕太郎、野坂昭如そして、井上靖くらいのもので、少ない。酒席をともにした作家が大半だが、最も親しかったのは中村武志だったのではあるまいか。中村はちょうどいまのぼくの年齢、ぼくは40代のとき、よく中村孤立宅へ出入りした。裏ビデオの新着の知らせで呼びつけられたのである。

中村は内田百の汽車旅ものにでてくる「ヒマラヤ山系」と錯覚した時期もあったが、ぼくの40代のときにはブームの欠片もなく、すでに過去の作家になっていた。知っている同僚も少なかった。「ヒマラヤ山系」同様、国鉄の職員で、かつ百の弟子を自任して、百をこの上なく敬慕していた。中村は『目白三平』という哀歓こもるサラリーマンもので一世を風靡するが、同じサラリーマンものの源氏鶏太のほうが作家としては長持ちした。

井上靖は新聞社の先輩記者である。井上が70代のころ、40代後半のぼくは自宅に伺って飲む機会があった。井上は酒もたばこも「人類がはじまっていらしなじんでいるんだから体に悪いわけがない」と強がっていた。酒はブランデーを2日で1本空けると言っていた。向こうも酔いこっちもしこたま飲んで酔っ払ったのが堀口大学邸を取材で訪れたときだった。「瀬下恵介君来訪」と毛筆で書いたサイン本がどこかにあるはずである。

作家に会うたびに思うのは、このひとの頭1個に壮大に網羅された歴史観、人物伝、ストーリー形成力、地理感覚、時代性、国家意識、人間観察力、自然洞察にはいかなるコンピュータも及ぶまい、と思わざるをえない。井上y靖の『敦煌』を読んで、その総合力への尊敬の念をいっそう深くした。



 

スポンサーサイト

この記事に対するコメント

この記事に対するコメントの投稿














管理者にだけ表示を許可する


この記事に対するトラックバック
トラックバックURL
http://penmori2007.blog108.fc2.com/tb.php/452-48796342
この記事にトラックバックする(FC2ブログユーザー)

プロフィール

瀬下先生

Author:瀬下先生
FC2ブログへようこそ!





最近の記事



最近のコメント



最近のトラックバック



月別アーカイブ



カテゴリー



ブロとも申請フォーム

この人とブロともになる



ブログ内検索



RSSフィード



リンク

このブログをリンクに追加する





上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。