ペン森通信
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すべてを捨てる覚悟はあるか
 垣根涼介の『借金取りの王子』を再読し終えた。読んだひとも多いだろうと思うが、これは「君たちに明日はない」シリーズの2である。少なくとも石田衣良の『シュ―カツ!』よりもリアリティーに富んでいる。3の『張り込み姫』もふくめて面接の技法がこと細かに表現され、一種の心理小説集といってもいい。主人公は慶応出の30代半ばのリストラ対象者の面接官。企業から人事整理、つまりリストラを依頼される会社の中堅社員だ。

 新潮社文庫になっているが2の『張り込み姫』の最後の話はまさに明らかに新潮社が舞台になっている。写真週刊誌『フォーカス』廃刊時の余剰人員のリストラがモデルである。取り上げた業界はデパート、生命保険会社、車のディーラー、温泉旅館と多岐にわたり、業界別にひとつずつの短編として構成され、主人公とその年上の恋人、主人公のアシスタントは全編を通じて変わらない。各業界の内実話は学生にとって格好の業界研究かも。

 このシリーズは全編に通底するメッセージは、働くこと、仕事することの意味を自分に問うてみたら、ということに尽きる、と思う。『借金取りの王子』のなかにこんなくだりがある。

「昔、聞いたことがある。たしかイギリスかどこかに、将来を嘱望されている非常に優秀な大学医がいた。あるとき彼は、北アフリカのとある港町を訪れた。船からその町を見た瞬間、すべてを捨ててその町に住む決心をした。実際にそこで、しがない検疫官として暮らし始めた。安定した今の生活と,薔薇色になるだろう未来も捨ててね」
「……」
「十数年後、友達が彼のところを訪ねた。とても貧しい暮らしだったらしい。で、友達は聞いた。すべてを捨てた挙句がこんな暮らしで満足なのかって。彼は笑って答えた。満足だよって。この暮らしに、一度も後悔を感じたことはないって」
 
 折しもメディアの春採用が終わりつつある。学生は例年になく安定志向のようだ。メディア自体が不安定な職種となったいま、巨大メディアといえども、必ずしも未来が約束されているわけではない。17年前のペン森開設時、ちょうど携帯電話が登場して、ぼくはびっくりしたものだ。インターネットの見学に行って、米雑誌『プレイボーイ』にアクセスを試みた。通じるまで30分かかった。この変化の裏で既存メディアは衰退した。

 だが、新聞もテレビもすべてが消滅することはあるまい。社会に必要な存在だからだ。問題はその存在理由を認めるに足る報道ができるかどうか、の覚悟にかかっている。志望者はそこまで考えねば、将来の自分の存在理由が覚束ない。さらに年月を重ねれば、メディア業界の様相はさらに激変することが必至だ。それでもなお、自分は既存メディアを活用してやりたいことがあり、それを抑えることができない、という若者は目指すべきだ。
 
すべてを捨ててとは言わない。はいったら、家庭を捨てるケースが多いのだから。仕事ではなく、酒ですべてを失うひともいるけどね。
 
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