ペン森通信
『ケインとアベル』はお勧め
 16日日曜日の毎日新聞読書欄に作家の山本一力がジェフリー・アーチャ―の3冊を推薦していた。おや、ぼくもそうだったと膝を打ったのが『ケインとアベル』(永井淳訳/新潮文庫/上下)である。「今日までに、わたしは数え切れない人々に本書を薦めた。一食ぬいても読んでみて、と」。ぼくは一食ぬいても、とは言わなかったが、だれかれとなく「まあ、読んでみて」と勧めた。山本一力同様、感謝されたものである。

 ひとに勧めて感謝された本といえば、最近では百田尚樹の『永遠のゼロ』(講談社文庫)がある。これは15期生と16期生が夢中になって読んで泣いた。ぼく自身、亡くなった読書家の俳優、児玉清が座談会かなにかで取り上げていたのがきっかけで読みはじめうるうる状態で読了した。16期女子の父親が上京して娘の部屋で一泊し、机の上に『永遠のゼロだけを置いて帰ったという話を聴いて、なんと素晴らしい父親だろうと感じ入った。

 南米移民に関心をもっている11期生女子に感化されて、ぼくも移民という棄民政策に興味をもった時期があった。そのころ、われわれは国に騙され棄てられたと国家賠償を求めて高い航空機代を払って日本にやってきた南米移民のグループがあった。国に騙され棄てられた、気宇壮大国家への復讐小説が垣根涼介『ワイルド・ソウル』(幻冬舎文庫・新潮文庫)。夢を求めて行ったブラジルで辛苦、貧窮し獣のような生活を強いられたのである。

 原発で故郷を棄てざるをえなかった福島棄民の子孫が、やがて国家と東京電力に復讐する小説が発表されるかも、と期待したい。『ワイルド・ソウル』は血なまぐさい惨劇の復讐でない点が物足りないし、そこがまた痛快だ。南米移民はブラジルだけでなくアルゼンチン、ウルグアイ、エクアドル、コロンビア、チリ、パラグアイ、ベネズエラ、ペルー、ボリビアの各国にも散った。多くは極度の貧苦からの脱出を図っていたのである。

 移民の日本脱出の様子を詳述描写したのが第1回芥川受賞作品の石川達三『蒼氓』(そうぼう)である。いまでは石川達三は読むひとも少ないが、まぎれもない社会派作家だった。『僕たちの失敗』『青春の蹉跌』『四十八歳の抵抗』と題のつけ方もうまい。不愉快な感じを与えながら最後まで読ませる。そのときどきの時代を切り取っている時代感覚と、独特の倫理観が現代にそぐわないと感じられて敬遠されているが、読む価値はある。

南米への移民は戦後もあった。ぼくが取材した青年は地下鉄の運転士だった。「地下ばかりの仕事がいやになった。明るい太陽の下で働きたい」と。これも一種の夢追い脱出にはちがいなかった。もはや顔も背格好も忘れ果てたが、国家への恨み骨髄の過去の移民にくらべて、徐々に自己責任に変わってきたようだ。だが、国家の移民政策によって過酷な生活の末に死んでいった多くのひとたちがいたことを、忘れてはいけない。

 さて、ジェフリー・アーチャ―。山本一力も推薦している処女作『百万ドルをとり返せ!』は、株で大損をした借金返済のためにベストセラーねらいで書いた。ねらいどおり大売れに売れ、借金を返してなおお金は余った。『ケインとアベル』は3作目。映画化もされたのでDVDを観たひとがいるかもしれない。小説のほうも掛け値なしにおもしろい。三食ぬいてでもぜひご一読されたし。いまここで内容は言うまい。
 

 
スポンサーサイト

この記事に対するコメント

この記事に対するコメントの投稿














管理者にだけ表示を許可する


この記事に対するトラックバック
トラックバックURL
http://penmori2007.blog108.fc2.com/tb.php/392-f9fcbc87
この記事にトラックバックする(FC2ブログユーザー)

プロフィール

瀬下先生

Author:瀬下先生
FC2ブログへようこそ!





最近の記事



最近のコメント



最近のトラックバック



月別アーカイブ



カテゴリー



ブロとも申請フォーム

この人とブロともになる



ブログ内検索



RSSフィード



リンク

このブログをリンクに追加する