ペン森通信
早く刑務所に帰りたい
 1冊100円の古本を5冊買った。そのうちの1冊『法廷のなかの人生』(佐木隆三/岩波新書)。90年2月、鹿児島で女子高生が使用していた自転車を盗み、400メートル逃げたところで緊急逮捕された70歳の男、前科18犯。その裁判の場面を再現した項目がある。なぜこの老人はドロボーを繰り返したのだろうか。弁護士、検察官、裁判官三者の質問によって、社会の矛盾と問題点が大量に浮き上がってくる。

弁護士「本籍地へは帰らないのか」
「兄弟とか一つもありません」
「前科が多いのはなぜか?」
「仕事がなくて、使ってくれない。大阪の西成区の職安へ行くと、『年寄りは危ないからダメだ』と言われ、食費も寝るところもなかった」
「生活費がないから盗むのか?」
「簡易宿泊所へ泊まれず、防空壕のようなところで、野宿をしました」 
「検察官の取り調べに、『生活に困ると、また盗もかもしれない』と供述しているね?」
「拘置所に入ったお陰で、ゴハンが食べられるから、胃が痛くないです」
「福祉事務所の世話にならないか?」
「そのためには、本籍地の手続きが要るから・・・」
「それでまた、刑務所に行くのか?」
「刑務所ではマジメにやります」
そこで今度は質問者が弁護士から検察官に代わる。
「更生保護会を知っているか?」
「北九州の小倉で保護会へ行ったけど、働かないとダメだから・・・」
「保護観察所には相談したか?」
「出所の翌日に行ったけど、12月27日で、年末の休みに入っていた」
「すると刑務所に戻るのが良いか?」
「私は酒を飲まないし、この年齢になると女も関係ない。刑務所で働きさえすれば、ゴハンを食べさせてくれる。恥ずかしいけど、早く刑務所に行きたいです」
最後に裁判官が質問する。
「刑務所を出たとき、本籍地へ帰っていれば、福祉の世話になれたのでは?」
「私は旧制中学を出ており、学業成績も悪くなかった。人間にはプライドというものがあり、出身地で福祉の世話になるというのは、やはり恥ずかしいです」
「これからの人生をどうするつもりか?」
「刑務所でマジメに働きます」

 老人は天涯孤独の身で、捕まったことに満足している。「酒は飲まない、女はもはや関係ない」というところに無欲の達観をみた。欲望は、普通の人が絶対に避けたい刑務所に入ることだけ。小さな裁判だが、あまりにも考えさせられる。公的扶助の不備、無縁化、孤独老人、単身社会、高齢者の仕事、ふるさと喪失、ホームレス増・・・感度のいい記者はこれを大きな記事にして読ませるだろう。ペン森卒業生もこういう題材から社会改造に結びつく報道をしてくれればうれしい。
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