ペン森通信
スポンサーサイト
上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。

なにもかもすっきりしない
けさ電車の隣席にひっきりなしに咳をする男が座っていた。男はマスクをしてない。ぼくはしているが、本を読むため老眼鏡をかけている。老眼鏡がくもるので、マスクは口だけを覆い、鼻の穴は防護してない。男は咳をするたびに一応、手のひらを口に当てる。咳の飛沫は正面には飛ばない代わり、手のひらから漏れて横にいるぼくのほうに飛んでくるような気がする。男は一向に下車しない。ぼくの降りる神保町までずっと乗っていた。

 たかが咳である。なんでもないかもしれないが、男がなにか病気をもっているとすれば、ウイルスか菌がぼくの体内に鼻から入った恐れもないではない。ぼくは席を移ろうかと思ったが、男はなんの病気にもかかってないのかもしれず、席をはずすと、悪感情をもつおそれがあり、申し訳ないと思案する。これしきの微量の飛沫がおれに伝染するわけがない、と理由もなく強気に思い直し、そのまま素知らぬ顔をして本に目を落としていた。

 開いていた本はマイク・ロイコの『男のコラム』。この本は単に、自室の本棚から引っこ抜いてきたものだ。毒舌の痛快コラム集だから、こんなうっとうしい雨の日に読むにふさわしい、と考えただけだったが、車内でとんだうっとうしい思いを経験することになった。ロイコの皮肉にうなっていた20数年前、ボブ・グリーンにも夢中になっていた。ぼくもアメリカンコラムが日本に上陸した当時、そのブームを支えた1人だったのだ。

 そのころ読んだコラムに、うろ覚えだから正確ではないが、バ―かどこかで、自分はがんだと告白した客の周囲の客が2,3メートル飛びのいた、というのがあった。がんは伝染する、とアメリカの男たちは思いこんでいた時代があったようなのだ。たまたま当時のアメリカンコラムを車内で読んでいたぼくは、「がん伝染」の記憶が頭の奥でよみがえり、余計に「咳男」を必要以上に敬遠してしまったのだと思う。


 日本の若者たちが『チーズ・バーガーズ』に親しんだアメリカンコラムの代表ボブ・グリーンは、元は地方新聞の記者。2年後コラムニストになり、アメリカ中西部を代表するシカゴ・トリビューン紙で活躍する。ボブ・グリーンのコラムは行数の制約なしに、題材に応じて、長短自由に表現したところにおもしろさがあった。内容にも独特の味があり、アメリカには珍しい抒情系にしてさわやかだった。

『ボブ・グリーンの父親日記』で家族の価値を重視したボブだが、取材当時17歳の女子高生との交渉が明るみにでて失脚する。女子高生が31歳になったとき、ボブに対してしつこく接触を試みる。気味悪いボブは当局に捜査を依頼して、14年前の淫行疑惑がバレてしまう。本人は「寸止め」して実行には至らなかったと否定するが、ABCテレビの有名番組「ナイトナイン」の解説者までのぼりつめていたのに、将来を棒に振る。

「咳男の咳」にしても「ボブ・グリーンの淫行疑惑」にしても、まるで福島第一原発の放射線の拡散のように、どうもはっきりしない。放射線のために婚約を破棄された30キロ圏内の娘さんもいる、と取材した記者から聞いた。風評被害だけでなく、実質上の差別や偏見がまかりとおっている。せめて福島原発が収束すれば、咳も淫行疑惑も世の中の汚染程度として消化できるのだろうか。世の中、すっきりしないことが多すぎる。



 

スポンサーサイト

この記事に対するコメント

この記事に対するコメントの投稿














管理者にだけ表示を許可する


この記事に対するトラックバック
トラックバックURL
http://penmori2007.blog108.fc2.com/tb.php/348-fa49888a
この記事にトラックバックする(FC2ブログユーザー)

プロフィール

瀬下先生

Author:瀬下先生
FC2ブログへようこそ!





最近の記事



最近のコメント



最近のトラックバック



月別アーカイブ



カテゴリー



ブロとも申請フォーム

この人とブロともになる



ブログ内検索



RSSフィード



リンク

このブログをリンクに追加する





上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。