ペン森通信
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チャップリンのステッキ
  今年ペン森を卒業して、それぞれ各社に入社した15期生に16期生が野村進『調べる技術・書く技術』(講談社現代新書)を贈呈した。これはなかなかのアイデアだった。野村進には『救急精神病棟』という傑作がある。「救急」というところがミソだ。これもメディア志望ならずとも必読の1冊である。カポーティーの『冷血』は取材期間5年、『救急精神病棟』は3年かけた。若者はその表現欲望と同時に付加価値のセンスも磨いてほしい。

 野村の『――技術』のなかに引用されている話に「チャップリンのステッキ」がある。いま手元にないので正確には引用できないが、つぎのような内容だった。週刊朝日のかつての名編集長、扇谷正造が、チャップリンの山高帽とちょび髭とだぶだぶズボンとドタ靴はコメディアンの格好としてはありきたりだが、ステッキをもつことで独創的な効果をあげた、と評していた。そのステッキの効果を野村は強調する。ステッキが付加価値だ。

 われわれにとってステッキとは具体的にどんな例なのだろう。ぼくは紀行文を書きたい、と考えていた時期があった。独りでの旅の紀行はありきたりだが、若い女性と温泉に行くとすれば、年齢差や女性以外にやりとりやぼくの下心もステッキということになる。現在高3の孫娘とも年1回遠出する。その場合、孫娘がステッキということになるが、この組み合わせは他人ではないからときめきに乏しく、あまりおもしろくはないだろう。

 3・11大震災にもステッキ効果のあるものがある。歌だ。「上を向いて歩こう」や「ふるさと」。ぼくは「ふるさと」の歌詞とメロディーを耳にすると、小学校時代のふるさとの風景がよみがえってきてうるうるジーンとしてしまう。
  
  兎追いし かの山
  小鮒釣りし かの川
  夢は今もめぐりて
  忘れがたき ふるさと

 老齢に達したいま、しきりに、ふるさとのかの山かの川を思い出す。歌詞の3番にいう。「山はあおきふるさと  水は清き ふるさと」。それとそっくりの村にぼくは育った。これに津波に呑みこまれてゆく家や村や町のシーンが重なる。原発20キロ圏内がきょう22日から警戒区域に指定され、立ち入り禁止となった。圏内の住民にはふるさとは心のなかに生き続けるが、実際上、消滅したのである。唱歌「ふるさと」が魂にしみいるだろう。

 論作文もステッキを見つけて、無理なく盛り込むセンスがあるかどうかで良し悪しが決まるといってもいいだろう。問題はステッキがなかなか見つけられない、ということだ。起承転結でいえば、起と承だけでのっぺりとして凹凸濃淡に欠け、あるいは起承結で終わっていてメリハリのきも、「転」がなく平板だ。「転」がチャップリンのステッキである。

 きのう、新潮社の6期生女子から岩手の銘酒「南部美人」が3本贈られてきた。ボランティアという力技の奉仕が年齢的に無理なぼくは、飲むことがステッキだ。つづけて本日、14期女子から取材中に思わず買ったという愛媛・砥部焼のマグカップが贈られてきた。白磁に手描きの模様を素朴に配色した厚手のカップ。これに氷の1片を入れ、「南部美人」を注いで、ステッキな贈りものをくれた14期女子の未来に乾杯!


 
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