ペン森通信
『私たちの時代』に生きる指針
 なんでもない、どこにでもある高校生部活の風景なのだが、感情が胸からあふれて、のど元にせりあがってくる。そのような感じにさせたのが、フジテレビのドキュメンタリー『私たちの時代』であった。といって、12月30日の正午から2時間半にわたって放映されたその番組を直接、観たわけではない。30日は数年前に死んだ飼い猫を府中・慈恵院の共同墓地に入れているので、その日も墓参りに行っていた。

 16期生に番組の収録を依頼していたところ、先週金曜日、収録ビデオを差し出してくれた。このドキュメンタリーが放映されることは12月10日の毎日夕刊で知った。プロデユーサーはこれまで幾多の賞をとり、フジテレビでその名前を知らないひとはいない、といわれるが、顔を知っている社員は少ない、らしい。今回の取材対象になったのは奥能登にある石川県立門前高校の女子ソフトボール部。インターハイの常連校だ。

 プロデユーサーは現地に3年間定住して、女子ソフトボール部員を観察しつづけた。監督はかつて全日本選手だった門前高校出身の定年近い独身女教師、この監督は22歳で赴任するが、その1期生の部員だった司書の先生がずっとコーチとしてついてきた。監督は自宅を部員に解放し、20人が規律正しい共同生活を送る。物語はいま東京の国立大学生となったマネージャーのナレーションで、装飾を排し淡々とひたむきに進んでいく。

 折しも07年3月25日、部員が金沢に遠征中、予想もしない能登半島地震が起こり部員の大半が被災者となる。番組は被害に遭った親や倒壊した家屋の表情や細部をただスケッチするように映し出す。バック音楽もピアノとバイオリンの単独演奏を主体にシンプルだが、そのシンプルさが映像の人間を際だたせる。道祖神の石像が少子高齢の過疎を象徴したり、選手の祈りを代弁したり、日本海の打ち寄せる波ともども効果的に挿入される。

 仰げば尊しわが師の恩。ぼくの涙腺を刺激する卒業式の歌がながれて、卒業生代表が答辞を読む。「日本中が大きく揺れ動いています。なにを信じ頼りにすればいいのか、生きる指針が定まりません」。この答辞が現在の高校生の、大人や政治に対する叫ぶような告発であった。さらにドキュメンタリー『私たちの時代』のメッセージだった。答辞はつづける。「本当に大切なものはなにか、それは真実とはなにか、向き合い・・・」。

 真実とはなにか、それと向き合うことをしているのだろうか、とわが身に問いかけ、ふと中原中也の「汚れちまった悲しみに」という詩を思い浮かべた。この詩の最後の詩文は「なすところもなく日は暮れる」。あのソフトボールの健やかに強い女子高校生にくらべて、ぼくは汚れちまった思い出だけがよみがえる。こうしてなすところもなく日が暮れる、のだろうか。そうはいかない。72歳にして新たに挑戦する生きる指針を見つけた。

 それはなにか、明かすわけにはいかない。ぼくはペン森生に現場主義と住み込み取材を提唱している。ドキュメンタリー『私たちの時代』はまさに住み込み取材の成果だ。若者よ、なすところもなく日が暮れる、ような人生を送るなよ。生きる指針を定めてくれ。

 
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