ペン森通信
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まずは牛の一歩を踏みしめる
 奥村土牛(1889~1990)という日本画家を知っているだろうか。土牛は雅号で、「とぎゅう」と読む。横山大観に目をかけられた、文化勲章受章の大画伯である。ぼくは「牛のあゆみ」という本人の著作を読んでこの画家に興味をもった。30年もまえのことである。芥川作家の近藤啓太郎が書いた評伝『奥村土牛』(岩波書店)も購入した。

 この本は3200円もする箱入りの上製本だ。土牛をより知りたいというより、じつは、近藤啓太郎が書いた本だからぼくは大枚をだした。近藤さんは千葉の鴨川に住んでいて、訪ねていったことがある。訪問の理由も、なにを話したかも、もう忘れた。その際、イタリア製のチーズの風味がまだ舌に残っている、日本の輸入元を知りたい、自分は足が悪くて動けない、さがしてもらえないかと頼まれた。ペコリーノチーズを探し当てて届けた。

 近藤さんは吉行淳之介、安岡章太郎、遠藤周作ら第三の新人に分類された文学流派だが、珍しくも東京芸大日本画科出身。そのひとが書いた土牛伝だから、他の作家の手になる以上に奥が深いだろうと思った。「不思議な線の顕著な例は左側の顔の輪郭であって、セザンヌの線が思い出された。セザンヌの静物画のテーブルクロスの壁の線などとよく似ていた」と土牛の『踊り子』の線描の感銘を記している。

 それはつぎの文につづく。「セザンヌは線としてではなく、濃密な陰影を描いて線状になっているのであるが、土牛の線と共通しているところがあった。土牛の場合、輪郭を現わす西洋画の線の性質を持っているにもかかわらず、その一方においては、日本画独特の主観的表現の濃厚な線でもあった」と絶妙な線を感嘆している。ぼくのような素人は谷桃子をモデルに描いた『踊り子』を何回みてもその線の特徴がわからない。

 土牛は写生のひとである。近藤は書く。「私はむしろ古径の絵は硬く土牛の絵はやわらかい、と思うものである」。古径とは日本画の巨匠、小林古径のことで土牛の兄弟子にあたる。古径がセザンヌの本を与えたことも土牛の画風に影響をもたらした、といわれる。土牛も日本画壇の最高峰に位置していたが、われわれが手軽にその真髄に触れられるのが奥村土牛美術館である。JR小梅線の八千穂駅前にある。101歳まで生きたこの大画家の基本となった素描が展示されている。心洗われるからぜひ観覧をすすめたい。入館料500円。

 そして、丑年にあたり、牛の一歩ということを考えてみる。高率とスピードによって一直線に答えを求め、プロセスを大事にする心構えを失ってはいなかっただろうか。作文のまた、対象を冷静客観的にみて素描をするところからはじまる。ゆっくり堅実に歩くと、それだけ視界にはいるものも増え、考えることも多くなり、作文に厚みと深さが加わる。

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