| 土日は鉄路を駆けめぐる |
神保町の隣の書店はエロ雑誌というかエッチ本の専門店である。ぼくのようなうぶは入店に勇気を有するが、かつてわざわざ入って狭い店内をつぶさに観察してきた受講生の猛女もいた。休日などタクシーで乗りつけるおじさんもいるから、その方面の興味と関心を抑えがたいマニアにはけっこう有名なのだろう。
その店頭にぼくにとってはエロよりも興味を引かれる古本が並べて売られている。駅名の由来を紹介したものや昭和の列車30年間の車窓風景、といった類である。このあいだはべつの古書店で『昭和の国鉄がわかる本』上下を仕入れた。北海道から九州の果てまで宮脇俊三さんの名著『最長片道切符の旅』を30年ぶりに追体験しようと計画している身としては、いまから資料をそろえておかねばならないのだ。
後輩に、がんで死にゆく自分を人間ルポとして連載した佐藤健という記者がいたが、かれは元気なころ、長い記事を書くときは自分の背丈だけの参考資料を読むべし、という主義だった。それは書く内容に厚みと奥行きを付加するかれなりの方法であった。物書きはたぶん、総じて取材に加えてそのような参考資料の助けを借りているにちがいない。
ぼくは資料のひとつにすべく新刊本も買った。『踏切みやげ』(石田 千、平凡社)。鉄道ファンはや鉄道マニアはあきれるほど多く、極めつきのひとりはぼくの先輩記者だった種村直樹さんだろうか。鉄道担当をはずされたとたん退社して、鉄道専門ライターに転じた。国鉄全駅完乗の記録ももつ。『気まぐれ列車』シリーズで知られ、ファンクラブも結成されていて、宮脇俊三さんと双璧をなす鉄道作家。
種村さんは娘さんの名前が「ひかり」と「こだま」、お孫さんは「のぞみ」と徹底しているが、さて、石田さんの踏切マニアぶりも相当なもの。踏切の長さを「大また4歩」とか「大また12歩」とか表現している。踏切だけでは間がもたないので、周辺ルポや自筆の挿絵でたのしませ、冒頭には「象の目で踏切わたる夏木立」などと踏切俳句を配して、多彩にしてしゃれている。
結局、エッチ本店店頭の古本は買わなかった。だいぶ購入費用がかさむが、鉄道に関する雑誌、本が全部そろっている書泉グランデ6階を利用することにした。ここはほんとうに各種鉄道雑誌のバックナンバーもカバーされ、きょうもぼくは雑誌やら鉄道地図やら3000余円分を仕入れた。土日は、こういう雑誌や地図を部屋にひろげて空想にひたりつつ、ニヤついているのである。いい趣味だねえ。
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