ペン森通信
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かくも深き志と男の友情
 読売新聞記者だった本田靖春は『誘拐』『不当逮捕』『私戦』という名作を著わした。それ以上に、「黄色い血」追放キャンペーンで売血の実態を告発して献血制度を変えるきっかけをつくったことでも知られる。『月刊現代』に自伝ふう遺稿「我、拗ね者として生涯を閉ず」を連載中断中、04年12月4日に70歳で亡くなった。

 ぼくはこの「生涯社会部記者」と称したジャーナリスト兼ノンフィクション作家の『警察回り』(サツまわり)を読んでなかった。本田記者は最初、上野署の記者クラブを舞台にした印象が強いが、記者としてスタートをきったのは小岩、小松川、本田、亀有の各署回りであった。江戸川、葛飾区のこの4署は8年後、ぼくも担当した。ぼくは駆け出し時代の自分と直面するような気恥ずかしさがあって、『警察回り』には目を背けてきた。

 実際、ぼくが東京・下町のサツまわりをしたのは45年も前なのである。川向こうといったその地域を担当する以前は、新人記者として1年10カ月間、八王子・日野・多摩などを担当していた。多摩市は現在、なんの因果かぼくが住んでいるところだが当時、多摩村役場にも顔を出したりしていた。木造2階建ての貧弱な役場だったが、いまは多摩ニュータウンの一角に建つ鉄筋コンクリートの堂々たる建物である。

 八王子署の署長は石嶺という沖縄出身で、署の玄関真上の2階にあった記者クラブで記者連中が飲んでいるといっしょに飲みはじめ、「小便はここからしろ」と表に面した窓を開ける、らしからぬ署長だった。ぼくの毎日支局長が信号無視の交通違反を犯したさい、もらいさげてこい、と命じられた。「もらいさげもサツまわりの仕事だ」。ぼくは八王子署に駆け込んで「うちの支局長を逮捕しろ」とわめいたが、署長は動かなかった。

 思い出は美化されるというが、半世紀近くも前はのんびりと緊張したよい時代だった。本田記者もぼくも、下町を受け持ったから余計に郷愁的な思いが去来するのではと思う。ぼくは本所署が根城だったが、本所署や亀有署にはずいぶん夕食を食べさせてもらった。そのころ、宿直員の食事は署員がつくっていた。亀有署の警務係長は、ぼくが他署をまわっていると「きょうはブリをさばく、早く来い」とわざわざ探し回って電話してきた。

 『警察回り』は記者同士の交流も読みどころだ。とりわけ朝日の名文記者、深代惇郎との乱暴な男の友情は深くこころに染みる。サツまわりの闘志に満ちた濃い青春はいまでもあるのだろうか。ぼくは10年ぐらい前、ライバル関係にあった読売記者と2人で旅をして、引退していた毎日記者を訪ねた。わがペン森にかつてのよき記者クラブの雰囲気が定着したようなところがあるのはぼくの望みどおりである。願わくば『警察回り』の本田靖春と『天声人語』の深代惇郎の友情はもちろん、この2人の志と文章が芽生えんことを。


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ESはだましのテクニック
  大学生の就職試験は年々早くなる。ぼくの手元にはもう、ES(エントリーシート)が寄せられている。民放キー局ではすでに終わったところがあり、つまり大学3年生で内定した。正気の沙汰ではないね。いまどきの大学生には内定したら、落ち着いて自分の勉強に打ち込むという種族は皆無だ。持てる能力を開発しないまま社会人になるのである。もったいない。才能・能力が埋蔵されていればの話だけどさ。

 3年ぐらい前、毎日新聞のコラムに記者が書いていた。電車の車内で目の前に座っていた女子学生がESに記入しはじめた。自分はほぼ1カ月かかったのに、なんと手軽な、と思ったそうだ。自分は過去をなぞって将来なにをやりたいかにつなげていった。そして自分は何者であるかの把握につとめ、社会に存在する者としてはたすべき貢献とはなにかを真剣に考えた。女子学生は社会をなめているんじゃないか、と記者は怒っていた。

 大筋同感だね。まあ、1カ月もかけるのはどうかと疑問をもつが、1週間はかけてもらいたいね。ESは、煎じ詰めれば自分を表現する書類である。つまり、21年間、22年間、あるいは23年間生きてきた、これまでの自分とはじめて直面し、対決する、という性格をもつ。その間、どのようなことを行い、どのように思考し、この先その過去をどのように社会に生かそうと考えているのか。それがキモである。

 ぼくが見るESは、ほとんですべてがマスコミ志望だから、要点は ①なぜ記者(編集、制作、広告)か、②なぜ当社志望なのか、③入社したらなにをやりたいか、④これまで最も熱中したものはなにか。この4点は、幹みたいなものだから、面接でどこから質問されても答えられるように、しっかり押さえておかねばならない。ESは採用側にとってあなたを知るための唯一の手がかりである。

 しかし、採用側が懇切丁寧に熟読して面接してくれるかというと、そうではない。たいていは、面接時にひろげてそこで目を通しつつ、質問してくる。したがって、めいっぱい小さな字で埋め尽くしたら読んでもらえない、と思うべし。広いスペースの場合、余白を十分に活用して、丁寧に大きな字で書く。書く手順は結論(タイトル)→理由・経緯・データ・分析と、あくまで結論が先である。

 ESは釣り針の役割がある。いかに採用側に食いつかせるか。応募者本人の可能性、コンパクトな表現、着想力、人間性、明るさ、ねばり強さ、コミュニケーション能力などを採用側はみたい。近年は、ちょっとしたことで辞める若者が多い。少しぐらい怒鳴っても辞めそうでない体育会系が好まれるのはそのせいだ。体育会系でないひとは、肉食動物系を装えばいいよ。は虫類系は絶対だめ。面接の本質は、運とだましあい、だからね。では、しっかりだましてくれ。

思いやりと優しさの名演説
 オバマ米大統領が誕生した。その就任演説の全文を読みたいが、日本語訳が掲載されるのは早くてきょう21日の夕刊からだろう。オバマ演説はケネディ大統領とキング牧師の演説を足して2で割ったようなもの、といわれる。しかし、オバマ自身は尊敬す16代大統領リンカーンをめざしていると思われる。

 就任直後の昼食会はリンカーンが1861年に就任した直後の昼食メニューと同じだった。互いにイリノイ州に縁が深いということもあるだろうが、やはり奴隷解放が結びつけたのだろうか。理想、平和、公平、希望の体現者としてのリンカーンの、ゲティスバーグ演説「人民の人民による人民のための政治」にも魂が揺さぶられたにちがいない。

 前大統領ブッシュは知性や深い教養を感じさせないままホワイトハウスを去ったが、かれもアメリカ人、雄弁そうに見えた。リンカーン、ケネディ、キング牧師と並んでオバマは名演説者の仲間入りをするだろう。「Yes we can」はキング牧師の「I have a dream」と共通する精神性を感じさせる。キング牧師は暗殺される前日にこの演説をした。あとにつづく台詞は「前途に困難な日々が待っています・・・」

 日本の名演説といえば民政党の衆議院議員、斎藤隆夫(1870~1949)が国会で1940年に行なった1時間半におよぶ反軍演説が有名である。議事録から削除された部分のさわりは。「聖戦ノ美名ニ隠レテ、国民的犠牲ヲ閑却シ、曰ク国際正義、曰ク道義外交、曰ク共存共栄、曰ク世界ノ平和」とこのような言葉を並べて、国家百年の大計を誤るようなことがあったら「政治家ハ死シテモ其ノ罪ヲ滅ボスコトハ出来ナイ」

 これで斎藤は陸軍から非国民と攻撃され、党籍離脱では収らず衆議院議員を除名される。結局、再選を果たすが、軍部批判を恐れなかったところは反骨の早稲田マンであった。その気骨はいまやいずこ。そして日本は太平洋戦争へと暴走していくのだが、ポツダム宣言の無条件降伏を受け入れる昭和天皇の玉音放送も演説の一種であった。「・・・其の共同宣言ヲ受諾スル旨通告セシメタリ・・・」

 ぼくが最も名演説と思うのは、チャップリンの『独裁者』で理髪店主が恋人ハンナにラジオで呼びかける6分間のあれだ。それは至言に満ちていて、ぼくは現代にも通用する次の台詞に耳が痛い。「スピードが自由を奪った。機械により貧富の差が生まれ、知識をえた人類は優しさをなくし、感情を無視した思想が人間性を失わせた。知識より大事なのは思いやりと優しさ。それがなければ機械も同然だ」。うむ、ぼくもどんどん機械化しているなあ。オバマの真髄は思いやりと優しさだね。期待しよう。


「けつの穴」の矜持よ!
  矜持。これ読めるよね。麻生首相なら「こんじ」か。ところが首相本人が「多額の金をもらっている方が、1万2000円ちょうだい、というのはさもしい。人間の矜持の問題だ」と高額所得者の定額給付金受け取りにくぎを刺したことから、「きょうじ」と読むことを知ったひとも多い。ぼくはさもしくも邪推するのだが、秘書官あたりがふりがなをふってくれたから、首相は再度の失態を免れたのじゃあるまいか。

 漢字を読めないことが中学生にも即理解できるわかりやすさだったから、支持率急降下に直結した。踏襲を「ふしゅう」といった漢字の読み間違いは、政策よりも庶民の頭にすんなりはいる。で、麻生首相は、おれはこんな難解な漢字も知ってるんだぜ、とマンガ脳の評判を挽回したいばかりに「人間の矜持の問題だ」と言ってみたのでは。ところが、この矜持がまた、麻生首相の矜持のなさを明らかにする元となったのは、ご存じのとおり。

 矜持=「自分の能力を信じていだく誇り。自負」(広辞苑)。首相は国会で民主党、枝野幸男氏の質問に対して高額所得者も受け取るのが望ましい、と風向きを変えた。これは細田博之自民党幹事長が「景気対策だから、国会議員ももらって使うべきだ」と言ったことに呼応する発言。しかし、高額所得者の首相ご本人はいったん、もらうべきでない、と言った手前、もらうとももらわないとも言えない状態にある。矜持はいずこへ。

 おまけに15日、財務大臣の諮問機関である財政制度審議会が、給付金の撤回を求める意見を述べた。政府の審議会だから、国会提出前の政府の方針に意見や助言を言うのがふつうだが、いまは給付金を盛り込んだ第二次補正予算案の国会審議中である。異例。財政審の委員は「他の経済活性化策に振り向けるべきだ」と自民党を離党した渡辺喜美議員への応援団みたいな結論にいたったのである。それでも首相は感じてない、ように見える。

 へこたれてないふりをしているのだろう、テレビでみると顔に険がでてきた。もともとが好人物の人相ではなかったが、人相が悪くなった。こんどは消費税増税の明文化をめぐって反麻生勢力が勢いづいた。麻生総裁は一歩も引かない構えのようだから、こりゃもめるぞ。「私は客観的に見ることができるんです」と大見得をきったというか、捨てぜりふを吐いて、違いを見せようとした福田前総理に代わった麻生総裁は「選挙の顔」だったはず。経済がわかると自慢しながら、なんの策もなく迷走するばかり。この首相じゃ、国民がたまらん。二次補正は来週成立しそうだが、公務員改革や消費税やで、バトルをやって打倒麻生をたのむよ。

 「ass・hole」。英語読みではこれがアソウ。すなわち「けつの穴」。えっ、あんたはまだ親アソウ!。そりゃヘンタイだよ。

週刊誌の発売が待ち遠しい
大学の同期の会合があった。元国会議員秘書が『週刊朝日』を抱えてきた。それをみた中堅会社の元社長が「ずいぶんむつかしいのを読んでるな。おれなんかせいぜい『ポスト』か『現代』だ」と言った。ぼくの『週刊朝日』愛読歴は古く、中学時代からだから半世紀以上になる。『サンデー毎日』も同様である。毎週、父親が買ってくるのが待ち遠しかった。

新聞社系だけでなく総合週刊誌は見る影もなく衰退の一途をたどっている。ゲリラ的にスキャンダルを追跡したり、権力の理不尽を告発する力業に欠ける。特集も細切れで何本もネタを並べるのが主流だ。その代わり、エッセイや企画ものにセンスのあるものが多くなっているように感じる。今週でいえば『週刊朝日』は読みでがあった。

特集は総選挙の300議席当落予測。この種の予測は各週刊誌こぞってやっていて、『サンデー毎日』も今週やっている。すこしまえには『週刊文春』が予測していた。いずれも民主大勝、自民激減の予測は変わらない。この種の記事は関係者か開票日にテレビにかじりつくぼくらのような年配者しか興味はないだろう。若者は選挙話では盛り上がらない。

ぼくは倉田真由美の「フリドラ君」は毎号読む。今週は結婚したい女たちと嫁にしたい女との違いを書いている。「結婚したいけど今のところ予定や展望が毛ほどもない女」の特長を挙げている。●コミュニケーション能力が高く、会話上手●仕事熱心で働き者●オシャレでセンスがいい●行動力がある。なるほど、これはマスコミに内定しやすい女子大生と同じ。わがペン森の女子はオシャレでセンスがいい、というところだけが違うようだが。

書評も充実している。今号取りあげているのは野中健一・立教大教授の『昆虫食先進国ニッポン』。地理学が専門の教授は世界各地の昆虫食文化をフィールドワークしているそうだ。自身も蛾、セミ、カミキリムシ、タガメ、ゲンゴロウなど多種を食した。『今日もやっぱり処女でした』という本は中沢孝夫・福井県立大教授が評者だ。主人公の山口あおばは24歳で処女なのだが「健康でのんびり女は、発情しにくい」と文中、自己分析する。

あと「改革」が日本を不幸にした、という中谷巌氏の懺悔記事も読ませる。規制緩和の旗振り役だった氏は「市場主義一辺倒に走った日本の社会分断」の結果を反省する。徹底した非戦主義者、三国連太郎の「昭和からの遺言」も若者は必読だろう。「兵隊に行きたくなくて貨物列車に飛び乗った」。その有為転変は凄絶でもの哀しい。連載「司馬遼太郎」は『最後の将軍』を取りあげ、鳥羽伏見の戦いで大阪城から逃げた徳川慶喜が写真撮影マニアだったことを描く。ぼくは吉村昭の『彰義隊』を再読したばかりだから、慶喜には特別に関心が掘り起こされていたのかのしれない。あす木曜日は『週刊文春』と『週刊新潮』の発売日。楽しみだねえ。

すさまじい映画が『キネマ』上位
 『キネマ旬報』の08年映画のベストテンが発表された。日本映画は1本もみてないが、外国映画は3本みている。最近は劇場公開されてからちょっとだけ待つと、DVD化されるからありがたい。もちろんぼくはもっぱらDVDで鑑賞した。みたのは『キネマ』の順位ベスト1『ノーカントリー』2『ア・ゼア・ウィル・ビー・ブラッド』4『ラスト、コーション』。

 『ノーカントリー』はコーエン兄弟の作品。この映画のバイオレンスはすごいよ。なにしろおかっぱ頭の殺し屋が牛やブタを殺す圧搾空気銃をぶら下げ、サイレンサー付きショットガンでだれでもいいから無意味に殺しまくる。この殺し屋は圧倒的な存在感があって、夢にでてくるほど不気味。ネットを開くと撮影中、レストランに行けばウェイトレスが怖がって隅っこの席に隔離されたというから笑える。

 コーエン兄弟は知ってるひとには余計なことだが、兄ジョエル・コーエン(55)、弟
イーサン・コーエン((52)。ジョエルが8歳のとき8ミリカメラを手にしたのがきっかけで兄弟して映画に興味をもつようになった。監督を兄ジョエル、脚本とプロデュースを弟イーサンが担当するという分担。

 この兄弟の作品ではぼくのお気に入りは『ファーゴ』だったが、『ノーカントリー』を上におくかな。『ファーゴ』は1996年の作品でアカデミー脚本賞を受賞し。主演の兄ジョエルの妻フランシス・マクドーマンドは主演女優賞に輝いた。マクドーマンドは身重の警察署長で身を反らしてよたよたと歩きながら見事な推理で犯人を追いつめる。

 『ノーカントリー』もアカデミー賞作品で殺し屋だけがやたら目立つが、サントリーのコーヒー「ボス」でとぼけた味をだすトミー・リー・ジョーンズが定年間近い保安官に扮しておっかなびっくりで追跡する。ユーモアらしきものがあるとすれば、この保安官の役回りだけかな。日本人たるぼくにはあのCMが脳に付着しているから、そう感じるのかもしれないが。

 とんでもないといえばあとの2本もそうだったね。『ア・ゼア・ウィル・ビー・ブラッド』の石油屋の強烈な生き方。『ラスト、コーション』は子どもには見せられない。激しくおとなの血が騒ぐ美しいシーンが見どころ。ぼくのみた3本ともお勧めだけど、血圧の高いひとは敬遠したほうがいいかもしれない。鼻血がでても責任はもたないよ。


まずは牛の一歩を踏みしめる
 奥村土牛(1889~1990)という日本画家を知っているだろうか。土牛は雅号で、「とぎゅう」と読む。横山大観に目をかけられた、文化勲章受章の大画伯である。ぼくは「牛のあゆみ」という本人の著作を読んでこの画家に興味をもった。30年もまえのことである。芥川作家の近藤啓太郎が書いた評伝『奥村土牛』(岩波書店)も購入した。

 この本は3200円もする箱入りの上製本だ。土牛をより知りたいというより、じつは、近藤啓太郎が書いた本だからぼくは大枚をだした。近藤さんは千葉の鴨川に住んでいて、訪ねていったことがある。訪問の理由も、なにを話したかも、もう忘れた。その際、イタリア製のチーズの風味がまだ舌に残っている、日本の輸入元を知りたい、自分は足が悪くて動けない、さがしてもらえないかと頼まれた。ペコリーノチーズを探し当てて届けた。

 近藤さんは吉行淳之介、安岡章太郎、遠藤周作ら第三の新人に分類された文学流派だが、珍しくも東京芸大日本画科出身。そのひとが書いた土牛伝だから、他の作家の手になる以上に奥が深いだろうと思った。「不思議な線の顕著な例は左側の顔の輪郭であって、セザンヌの線が思い出された。セザンヌの静物画のテーブルクロスの壁の線などとよく似ていた」と土牛の『踊り子』の線描の感銘を記している。

 それはつぎの文につづく。「セザンヌは線としてではなく、濃密な陰影を描いて線状になっているのであるが、土牛の線と共通しているところがあった。土牛の場合、輪郭を現わす西洋画の線の性質を持っているにもかかわらず、その一方においては、日本画独特の主観的表現の濃厚な線でもあった」と絶妙な線を感嘆している。ぼくのような素人は谷桃子をモデルに描いた『踊り子』を何回みてもその線の特徴がわからない。

 土牛は写生のひとである。近藤は書く。「私はむしろ古径の絵は硬く土牛の絵はやわらかい、と思うものである」。古径とは日本画の巨匠、小林古径のことで土牛の兄弟子にあたる。古径がセザンヌの本を与えたことも土牛の画風に影響をもたらした、といわれる。土牛も日本画壇の最高峰に位置していたが、われわれが手軽にその真髄に触れられるのが奥村土牛美術館である。JR小梅線の八千穂駅前にある。101歳まで生きたこの大画家の基本となった素描が展示されている。心洗われるからぜひ観覧をすすめたい。入館料500円。

 そして、丑年にあたり、牛の一歩ということを考えてみる。高率とスピードによって一直線に答えを求め、プロセスを大事にする心構えを失ってはいなかっただろうか。作文のまた、対象を冷静客観的にみて素描をするところからはじまる。ゆっくり堅実に歩くと、それだけ視界にはいるものも増え、考えることも多くなり、作文に厚みと深さが加わる。




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