ペン森通信
逆の生き方をしてきた
  きのう11月5日、71歳の誕生日を迎えた。71年生きてきた割に一向に育ってない部分もかなりある。すでに目一杯の感じがするのは節酒制限中の酒量くらいのものだ。精力も0・01グラムも残量がないくらい減退しているか。もちろん記憶力もどこかへ消え去った。本は読んでないのが多くて、書店に行くと自己嫌悪に陥る。

 このところ、頻尿対策とか墓地選びとかの広告に敏感になった。ぼくは催眠薬を常用しているが、2,3時間に1回の割合で小便に起きねばならない。ペン森で合宿へ行ってもトイレに近い布団にもぐり込むことにしている。しかし、酔いすぎると催眠薬も飲まず、そのまま手軽な布団を利用する。酒を飲むと小用の間隔が長くなる、と医者に言ったら、「それは逆じゃないの、と笑われた。逆を好む癖は生理現象にも現れているようだ。

 71歳というと物心ついてから半世紀以上なり、この間、召された知り合いは数しれない。祖父祖母父親母親叔伯父伯母に友人知人。太平洋戦争の戦地から帰還した叔父は、いったんぼくの家に寄留し、気が抜けたように座敷に寝ころんでひねもす西部劇『黄色いリボン』の主題歌のレコードを何回も何回もかけていた。体格のいい叔父の虚脱したような姿とその曲のメロディーはいまでも耳の底にこびりついている。

 『黄色いリボン』はジョン・フォード監督の騎兵隊3部作の2作目にあたるが、主演はジョン・ウェインである。ぼくはあとの2作『アパッチ砦』『リオ・グランデ砦』もDVDでもっている。だが、ジョン・ウェインが嫌いなので見る気がしない。ああいうアメリカンマッチョは、いかにも好戦的にして偽善的なアメリカの典型みたいだ。あの大男の世紀の大根役者は意外に声が細く、尻もデカ尻ではないところだけが取り柄だ。

 1950年前後の西部劇は、やたらインディアンを殺し人種差別むき出しの場面も多い。とにかく隔世の感があるから若い人もDVDを借りるとよい。50年代60年代の映画は邦画洋画を問わず、主演脇役がむやみにたばこを吸う。禁煙広がる現代からみると、目をむくような光景だ。小津映画は『秋刀魚の味』にしても、たばこと酒が絶妙な調味料になっているから、これはこれで時代を示す彩りではある。

 酒といえば、ぼくは小浦太平という故人を思い出す。「天下ノ浪人」と自称する理論右翼であった。299種という日本最多の果実酒づくりに成功し、それを振る舞っている、どうぞ飲みにきてください、と毎日新聞に投稿してきた。「これは違法ですよ」とぼくは自宅を訪ね、ならば酒税法を改正する運動をしましょうよ、と促した。昭和46年にブドウ種などを除き、一般家庭でもさまざまな果実酒がつくれるようにした功労者である。小浦さんは、酒は一滴も飲めなかった。代わりにぼくが飲んだ。小浦さんもまた逆の生き方をした。膨大な果実酒は遺言でぼくに託されたが、収容場所がなくもらわなかった。

相対的貧困の高さが示すもの
 来春のマスコミ試験に出そうな用語に「相対的貧困率」というのがある。気の利いたひとは新聞を切り抜いて備えているだろう。「政府は貧困率を発表すべし」と反貧困ネットワーク事務局長の湯浅誠氏なんかが主張していたが、その貧困率である。湯浅氏は21世紀になって顕著になった格差社会が生む貧困現象に目を向ける社会運動家ということはみんな知っていよう。

 これまで「1日あたりの所得が1ドル未満」の貧困層という言葉は聞いたり読んだりしたことがあるだろう。1ドルが高いか安いかは生活状態などそれぞれの国の事情によって違うので、あまり合理的ではない。これが絶対的な貧困である。飢餓に苦しんでいる人々がアフリカを中心に世界で10億人に増えたといわれる(これまでは8億人が通説)が、それは大半が1日1ドルの所得もない人たちなのだろう。1ドルを物差しにしてアフリカの国々と日本とを比較しても妥当ではないということだ。

 そこでOECD(経済協力開発機構)が加盟30カ国に出させている相対的貧困率のほうが比較の尺度になるとされ、日本ではじめて、全国民のなかに低所得者が占める割合を示す相対的貧困率が厚生労働省から発表されたのである。OECDには先進国が加盟しているが、日本の相対的貧困率は15・7%(03年)。豊かな日本、経済大国日本などと威張っているが、意外な貧困率の高さに驚いた人も多かったにちがいない。ぼくもそうだ。

 15・7%という数字は下から4番目になる。メキシコ、トルコ、アメリカの次に悪い。アメリカは言わずとしれた格差社会である。人口はこの17日に3億人を超えたと推定されるが、2億7000万人当時、ビル・ゲイツの資産は下から数えて1億人分に相当すると言われた。相対的貧困率というのは経済格差を表わす指標なのだ。国民の所得額の真ん中を算出し、その半額に満たない人の割合が相対的貧困率である。

 今回、所得の半額は114万円だった。これに満たない人が日本には7人に1人いるということだ。この貧困率の数字は自殺者3万人超の経済大国の矛盾を如実に照らすものだろう。日本はいつのまにかひどい国になり、その流れに歯止めをかけようとして国民は政権交代という実力行使を行なった。しかし、いまのところ新政権が期待に応える力を示せるかどうかはわからない。政権内の高揚感は立場の弱い層に分かち与えられるのだろうか。

 相対的貧困率はデンマークとスウェーデンが5・3%でベストだ。国民に中間層意識が高かった高度成長期、それほど格差はなく、日本は富の分配がほぼ全員に行き渡っていた。平等社会だったのである。しかし、それではグローバル化時代、国際競争に負けてしまうという合唱が起こって、格差社会に突入した。若者を貧困に追いやるという社会は未来可能性の芽を摘む。共同体の分かち合い精神を取り戻さねば。ペン森は若者の未来可能性に期待を込め、平等分かち合いの価値観だね。


うなぎ食べたし、名店に行ってきた
贅沢にも半年に1回くらい無性にうなぎやステーキが食べたくなる。先週はうなぎを欲していた。週刊現代がグラビアで特集していた「東西ベスト10 町のうなぎ屋を食す」を切り抜いて、ためつすがめつ見入って、ああうなぎを食いてえ、と悶えていた。その折も折、ペン森卒業生の某女子から今度の土曜日、南千住の名店「尾花」でお昼しましょうよ、と誘われた。

 以前は、九段の「宮川」をひいきにしていたが、最近は足が遠のいている。ここも客の注文を受けてからうなぎを裂いて焼くので、焼き上がるのをお新香で酒を飲みつつ3,40分待つ。お新香がうまいのは名店の証拠みたいなもので、「宮川」のおかみさんはぼくの酒好きとお新香好きをよく知っていて、部屋にとおるとお新香がてんこ盛りで出てきた。お燗酒を昼間から2,3本飲んでいるうち、ほんわりと褐色に焼けたうなぎが炊きたてのご飯にのって現れた。

 「尾花」は名前だけは知っていたが、利用ははじめて。午前11時半に着くと、ぼくたちの前に入店を待って並んでいた先客第一陣が席につき、ぼくたち第二陣は第一陣が食べ終わるまで外の長椅子に腰を落ちつける。「1時間待ちですからね、12時半くらいになりますよ」と係のおばさんが念を押す。黙って並んで本を読んでいるあいだにも列はどんどん長くなっていき、門の外まで人が立っている。にょろにょろとうなぎみたい。

 おばさんがメニューを手に、列に沿ってつぎつぎに注文を聞いていく。ぼくはうな重3000円、3500円、4000円とあるのをずいぶん高いな、と思いながら眺め、3500円を注文する。相方は3300円の白焼き。伊豆方面に行くとき立ち寄る三島広小路の老舗「さくら家」はここより安い。「さくら家」ではうな重は蒲焼きの数によって2枚、3枚、4枚と注文するが、ぼくはいまや3枚は多すぎる。2枚が量的にちょうどよい。

 例によって、お新香600円を肴に冷酒1本300ミリリットル1000円を飲みながら、畳に足を伸ばす。お新香は漬け具合が絶妙でキュウリ、大根、白菜、ナスとどれも美味。相方もおいしいですね、と感嘆してお代わりを頼みそうになる。昼の冷酒は五臓六腑にキュンとくる。うなぎがくる前にお新香で酔っぱらっちゃいけない。「尾花」の3500円は「さくら家」の2枚に当たる感じ。やや薄味のさっぱり系である。「さくら家」のほうがぼくの好みかな。割安だし。お新香は断然「尾花」だが。

 「尾花」の客の年齢層は高め。ぼくより高齢と見える男女も少なくない。不況はどこへ消えたのだろうと2人分9千なんぼを支払いながら年金生活者は幸福であった。今度はうなぎ消費量日本一という旧浦和にある「満寿家」へ行きたいね。女子の相方求む。

無理を言うが小説『無理』を読め
 奥田英朗の『無理』は本文540ページの大作である。税抜きで1900円もするので、買い控えていた。この定価だと、ぼくはぎっしり2段組みでないと、もったいない気がしてあまり手をださない。文庫になるまで待とうか、と考えたりする。年金生活をしていると、根がケチな性分に輪がかかるようだ。パンツはもっぱら100円ショップになった。すこぶる履きいい。しまむらよりもずっと安価でごゴム負けもせず、ぼくには快適。

 100円ショップのパンツを色違いで5枚も買っちゃった。近所の西友の1枚かせいぜい2枚分だよ。ケチなくに、飲食や旅の出費にはあまり神経質でもない。旅はめったなことでは新幹線に乗らないし、ましてやジェット旅客機なんて、あんな思い物体が空中を飛ぶとは神への冒涜ではないかとさえ思う。中空に浮かんでいる飛行機をみて、あのなかで人間が行儀よく並んで座っているのだ、と想像すると気持ちが悪くなって落ち着かない。

 新幹線や飛行機を利用しないのはお金よりもスピードの問題。遠方へ行くのにわざわざ急ぐ必要があるのか、ぼくは疑問に思う。車窓を楽しみ、ときには途中下車して地元のおいしいものを食べ、おいしい地酒をのどに入れ、共同浴場に入ったりして、ふんわりとした気分で旅したほうがトクじゃないか、とぼくは考えるほうだね。学生時代は駅寝や駅前公園で寝たりしたが、いまは駅前ビジネスホテルに飛び込んだりする。

 奥田英朗の『無理』にはその地方都市のことが書いてある。合併で市になった東北地方の人口12万の小都市にうごめく人間の生態が微細に描写してある。これまでの奥田作品『邪魔』『最悪』には気乗りしなかったが、『オリンピックの身代金』からこの直木賞作家に注目している。深層を抉る社会派作家だ。昔の石川達三や松本清張や山崎豊子や有吉佐和子の小説のように直球ストレートの告発型ではない代わり、しんしんと内臓方面にひびいてくるクセ玉というか、膝元に食い込んできてのけぞるようなシュート小説が得意。

 はい、文庫を待ちきれず単行本『無理』を購入したのです。中央大学生協で1割引きでね。じつはまだ5分のしか読んでないが、これは間違いなく推奨できる本と自信をもっていえる。ぼくはページを繰るごとにこの分残りが減っていくのだな、ともったいない気がして困る。ぼくがいくらローカル線で地方を見ても、その底にゆらめく出口なき人間の実相や内面はわからないからね。これまた一面からみれば小泉政権を頂点とする戦後自民党政治の罪を暴いている。戦後政治が地方にどのような影響を与え、そこに暮らす人間がどのように壊れていったかを知る小説でもある、と感じて読み進めている。

 地方にはしまむらはあるが、定職層のお助け店100円ショップはあるのだろうか。見かけない気がするが。


マスコミ論作文の基本対策
 来春のマスコミ論作文対策が中央大学でははじまっている。講師をしているぼくは今週、以下の基本対策をアドバイスしようと思っている。

○出題の傾向
 マスコミ論作文の出題は字数800字と1000字に大きく分かれる。800字が論文系、1000字がストーリー系と区分けできる。2009年の出題からみると800字は朝日、NHK,産経、時事などで1000字は日経、読売、毎日、道新、共同など。いずれも題はその時代の特徴、背景、底流をヒントに出されるので、いまこの時代はどのような流れの中にあるかということを考え、その時代性をつかんでおくことである。

○論文と作文の違い
きわめて乱暴簡潔な言い方をすれば、論文は「これは○○である」、作文は「私は○○と思う」という違いがある。
しかし、マスコミ論文で「これは○○である」といふうに客観的に一般論を書いても通じるのは読売くらいのものである。読売は自分に引き寄せて具体表現するのがむつかしい題をだす(2009年春「日本映画」。秋は「働く」だったからあるいは方針転換か)。
800字は冒頭に問題点あるいは自分の考えを提示して、つづく本文で具体的なエピソード(素材=ネタ)を例示し、それ土台に展開して冒頭に示した問題点や考えを裏付けていく、という手法をとる。1000字は800字より起承転結をくっきりとさせてメリハリをつけ、身近なエピソードを引き合いにだして言いたいことへと盛り上げていく。

○素材(ネタ)の選択にセンスを
800字にしろ1000字にしろ、自分だけが知っている一次的な情報を素材(ネタ)にすることが必要。この素材によって、合否に結びつくことも多い。素材の新鮮さはマスコミの生命線ともいうべきニュース性と企画性に直結するから、そのセンスが問われるわけである。ありきたりな素材はマスコミのニュースや企画にはならないのである。
ありきたりな素材というのは、受験、部活やサークル内人間関係の愚痴、祖父母の病気・・・ほかに旅の思い出や失敗の経過報告、出題された題の意味づけも避けたい。どうしても小学生のおしゃべりみたいに表面的な現象を追いがちになるからであ
直近の体験も感情コントロールが利かなくなり、上滑りしがちである。書くべきことを十分に消化しないまま書くからだ。発酵し熟成するまで待たねばならない。

○現場へ行って思考を深める
 中国の伝統的な文章上達法は、多く読み、多く考え、多く書く、ことだという。楽天の野村監督は多く考えることを選手に求めた。打者はバッターボックスに立ってから考えてももう遅い。普段から野球を考え、ベンチでも相手投手をみて攻略法を考える。
 論作文で考えるということは、ネタの現場に行って、自分の目で見て、耳で聞いて、肌で感じて、独自の思考を重ねるということである。まずは現場へ出向いてネタを仕込む。そうすればESの材料になるだけでなく、論作文に奥行きも幅も備わってくるはず。積極的に現場へ行くことだ。現場とは例えば、府中の慈恵院(おびただしい水子地蔵と女性の後悔絵馬)、銭湯めぐり、世田谷の松陰神社商店街(障害者への気配り)など無数にある。



プロフィール

Author:瀬下先生
FC2ブログへようこそ!





最近の記事



最近のコメント



最近のトラックバック



月別アーカイブ



カテゴリー



ブロとも申請フォーム

この人とブロともになる



ブログ内検索



RSSフィード



リンク

このブログをリンクに追加する



By FC2ブログ

今すぐブログを作ろう!

Powered By FC2ブログ